この人に聞く

世界中の様々な情報を解析し“危機”をいち早く把握

東日本大震災から生まれた情報サービス Spectee Pro

災害などの危機発生時には、現場の正確な情報を早急に把握することが何より求められる。(株)Specteeが提供する『Spectee Pro(スペクティプロ)』は、SNSに投稿された情報に加え、道路や河川のカメラなど多様な情報などをAIが解析し、危機管理に必要な情報を高い精度で収集・発信するサービスだ。同社の村上建治郎社長に開発のきっかけと、これまでの経緯を聞いた。

東日本大震災でのボランティアがきっかけ

 きっかけは2011年の東日本大震災です。当時は被災地でボランティアをしていましたが、メディアで伝えられる情報と、被災地の実際の状況には乖離があると痛感しました。一方で、SNSでは「この地域ではこれが足りない」といった細かな情報が上がっていました。そこで、そうした情報をきれいに整理してまとめていけば役に立つのではと考えたのが創業のきっかけです。2011年11月に当時勤めていた会社を退職して、現在の会社を起業しました。最初に出したのは、地域ごとに情報をまとめて表示するローカルSNSのような形のサービスでした。
 その後サービスを何度か作り変えて行く中で、反響をいただいたのは報道機関でした。災害や事故が発生した時に、まだニュースになっていないような新しい情報を知る上で、記者にすごく役に立つということです。すぐさま全国の報道機関に導入され、報道機関の間では業界標準的なサービスとなりました。さらに自治体や民間企業に浸透していき、よりお客様のニーズに合わせていく中で、サービスをアップデートしたのが現在のSpectee Proです。
 Spectee Proは、従来のSNSの情報に加え、さまざまな情報を組み合わせているところが大きな特長です。我々は、SNSの情報をお客様に伝えるというだけではなくて、あくまでどこで何が起きているか、リスク情報をリアルタイムに伝え、さらに状況を分析したり、予測したりすることをミッションとしています。SNSの情報以外にも、近くの道路カメラや防犯カメラの映像だったり、IoTのセンサーによる気温の変化だったり、自動車の走行データとか、こういった情報をもとに例えば冬場の道路のスタックの予兆を検知したりすることを可能にしています。

カメラ情報などを解析

各地のカメラについては、公開情報だけではなく、非公開のものについては所有者と直接交渉して契約を結んでいます。そのため、民間のカメラや防犯カメラも一部許可をいただいて繋いでいるところもあります。河川カメラも、国交省や河川事務所のカメラだけでなく、河川事業者や建設会社さんとかが使っているカメラなどは個別に交渉しています。

AI技術による進化

AIの技術は、この10年すごく発展しました。これに合わせ、私どものサービスも、単に被災地の情報を出すところから、複数の情報を組み合わせた解析や予測などとサービスの幅を広げてきました。そして、今や日本のみならず世界へ、そして取り上げる事象も災害だけでなく様々なリスク情報に広がってきました。こういった大量の情報を扱うには、やはりAIの技術がはたすところは大きいのです。


SNSの情報を扱う上で、必ずお客さんが気にすることの1つはその情報の信ぴょう性です。当然SNSの中には間違った情報もありますし、デマを発信する人たちもいたりするので、しっかり見分けて正しい情報を伝えていくことが重要です。報道機関がメインのお客様だった時には、その情報の信ぴょう性は、最終的には報道機関が確認していたのですが、現在のお客様は、圧倒的に自治体の防災部門や民間企業の災害対応やBCP担当の方なので、その情報のファクトチェックは、私どもがしっかり行った上で、正確な情報を提供しなくてはなりません。AIの進化でそのあたりの効率は進んでいますが、災害情報を正確に伝えていく上で、今後も私ども果たしてくべき役割は大きいと感じています。

プロフィール

ソニー子会社にてデジタルコンテンツの事業開発を担当。その後、米バイオテック企業にて日本向けマーケティングに従事、2007年からシスコシステムズにてパートナー・ビジネス・ディベロップメントなどを経験。2011年に発生した東日本大震災で災害ボランティアを続ける中、被災地からの情報共有の脆弱性を実感し、被災地の情報をリアルタイムに伝える情報解析サービスの開発を目指しユークリッドラボ株式会社(現・株式会社Spectee)を創業。著書に「AI防災革命」(幻冬舎)

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